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福岡家庭裁判所 昭和39年(家)1478号 審判 1965年4月17日

申立人 田中直子(仮名)

右法定代理人親権者母 田中春子(仮名)

相手方 村山明男(仮名)

主文

相手方は申立人に対し

(一)  金三万円を直ちに、

(二)  昭和四〇年四月から昭和四一年三月まで毎月金三、〇〇〇円宛を毎月末日限り、

(三)  および昭和四〇年六月ならびに同年一二月に各金一万二、〇〇〇円宛を上記(二)記載の当該月分に加算していずれも月末限り

それぞれ福岡家庭裁判所に寄託して支払わなければならない。

理由

申立人法定代理人は相手方は申立人に対し扶養料として毎月金八、〇〇〇円宛を支払えとの審判を求め、その理由として、申立人は相手方の長女であるが、昭和三九年八月六日相手方と協議離婚した親権者母田中春子の許で、その収入により生活を維持して来たが、現在高校二年在学中で、学資その他に相当の出費が嵩み、母の収入のみでは最早申立人の生活を維持することができなくなつたので、本件扶養の申立に及んだというのである。そこで、本件扶養請求の当否について判断する。

申立人の実母田中春子が昭和一九年六月一六日相手方と婚姻し、昭和二〇年一月二三日長男一男、昭和二二年一〇月一二日長女申立人を儲けたが、昭和三九年八月六日相手方と協議離婚し、長男の親権者を父、申立人の親権者を母と定めたことは本件記録添付の各戸籍謄本に徴して明かである。

ところで、本件の如く夫婦が離婚しその一方が未成年の子の親権者になつた場合、親権を有しない他方の子に対する扶養義務は如何なる変化を来たすものであろうかというに、扶養を要する未成年の子に対する父母の扶養義務は婚姻中であると離婚後であるとによりその性質を異にするものでなく、一般の親族扶養義務が生活扶助義務といわれるのに対し、いわゆる生活保持義務即ち未成年の子の生存を恰も自己の生存そのものとし維持する義務と称され、離婚後親権を有しない一方の親又は未成年の子と生活を共同にしない一方の親は他方の親より原則としてその扶養義務が軽減され或は当然後順位になるというものではなく、依然として生活保持の扶養義務を負担しているものであり、双方の親が現実に未成年の子に対して負担する扶養料の割合はその資力に応じ一切の具体的事情を考慮して合理的に決定さるべきものである。

よつて、本件において、申立人の扶養料の額及びそのうち相手方の負担すべき金額について検討する。

当裁判所調査官畑地久子作成の調査報告書三通、福岡市長阿部源蔵作成の給与証明書二通、○○火災海上保険株式会社福岡支店作成の俸給支給明細書、○○○高校同窓会員名簿編纂事務局作成の給与証明書及び勤務状況照会回答書、○○大学学生部長浅川淑彦作成の学費等照会回答書、協同組合○○○専門店会作成の負債並びに支払状況照会回答書、相手方に対する審問の結果を綜合すれば、申立人の母は相手方である父と性格が合わず、父が酒を好み享楽を求め深夜帰宅してはバーの女に電話して騒ぐなど、父のかような生活態度を嫌悪し、もつと堅実な家庭生活を欲求する母は母の実家の両親と共に父には無断で創価学会に入会し、爾来父が飲酒して帰宅するときは極めて非協力的な態度を示し、昭和三九年五月中旬頃父の兄が名古屋で急死した際にも冷淡で、父の名古屋行きの準備に全く手伝わなかつたことなどから父母の争いとなり、同月末頃父の留守中にかねて父の飲酒を嫌つていた申立人を連れて無断家出し、母の実家に行き、その四畳半一室を無償で借用して母子が同居するに至つたところ、父が昭和四〇年二月二日頃再度酒気を帯びて押しかけ、母が持ち帰つていた家財道具等を無断で持出したと言つてその引渡を要求し、家族を脅迫したので、母は後難を恐れると共に、同居中の母の弟の結婚問題に支障を来たさないように配慮して、同月六日頃現在の住居に申立人を連れて引越し、二階六畳一室を一ヵ月金五、〇〇〇円の間代で間借りして今日に及んでいるのである。一方相手方である父は申立人の母と協議離婚後長男一男を引取り、父の兄(昭和三九年五月死亡)所有名義の住家に従前から引続き無償で居住し、長男は○○大学在学中のため、平素は一人暮しであるところから、日常生活が乱れ、朝食だけは自宅で自炊し、昼食及び夕食は外食して浪費を重ねていたが、昭和三九年一一月頃から現在の内縁の妻幸子と事実上再婚して現在に至つているのである。次に申立人は現在○○女学院高校三年在学中であるが、成績優良、身体健康、明朗で感受性が強く、申立人の養育に要する費用としては、月謝三、二五〇円、予託金一学期に約一、〇〇〇円、昭和三九年一〇月までは修学旅行費積立金一ヵ月一、〇〇〇円、その後はアルバム代積立金一ヵ月四〇〇円乃至五〇〇円を学費として約付する外毎月の通学定期券代約三〇〇円、小遣約一、〇〇〇円、食費等約三、〇〇〇円以上一ヵ月平均約八、二〇〇円(アルバム代四〇〇円として)の養育費を必要とすることが認められるところ、申立人の母は○○火災海上保険株式会社福岡支店に勤務し、毎月給料(固定給なし)少くとも一万一、〇〇〇円乃至一万三、〇〇〇円の月収がある外、昭和四〇年三月までは○○○高校同窓会員名簿編纂事務局に名簿作成のアルバイトとして稼働し、毎月約五、〇〇〇円程度の収入があり、申立人及び母が母の実家に同居中は家賃の支払がなく、上記申立人の学費の外母子二人分の食費等生活費として毎月六、〇〇〇円を実家に支払い、なお母の小遣雑費等の支出があり、不足分は実家の援助を受けていたところ、昭和四〇年二月から上記の如く間代として母子二人の六畳一室分毎月五、〇〇〇円を支払う一方同年四月以降毎月約五、〇〇〇円の上記アルバイト収入がなくなるので相当負担が増加するのである。次に相手方である父は○○市役所吏員として、昭和三九年四月から同年一〇月まで平均毎月約四万円程度の現金支給額の給料(但し昭和四〇年八月から毎月五回に亘り住宅貸付金三、〇〇〇円引去る)と昭和四〇年七月の期末勤勉手当として現金支給額約七万四、〇〇〇円余の収入があるところ、長男の学資として毎月約一万円乃至一万二、〇〇〇円を送金する必要がある外、毎月の支出額は父の生活が離婚後乱れて浪費の傾向があり、また父は母が離婚に伴なつて上記の如く家財道具等多数を無断持去り、これを補充するため必要があると称して薄団、飾棚、飾皿等を購入し、更に後妻を迎えた際の結婚式その他の費用約五万五、〇〇〇円を支払う等出費が多いと称し、電話、保険金を夫々担保に計七万円の借用金、或は友人等からの借用金があつて生活に余裕がないと強調し、協同組合○○○専門店会の負債は昭和三九年一〇月末現在額七、〇〇〇円、昭和四〇年一月一一日現在額四万五、二〇〇円で、同年一月以降に新規購入品がなければ昭和四〇年一月から同年三月まで毎月二二日の支払日に五、三五〇円宛、同年四月の支払日に三、九五〇円、同年五月から同年一二月まで毎月の支払日に三、一五〇円宛を支払うべき債務を負担しているが、家賃は支払う必要がなく、また後妻を迎えて一応は家庭生活も落着きを取戻しているので、大体毎月約四万円の上記給料のうちから長男の学資最低一万円、○○○専門店会月賦弁済金三、一五〇円(昭和四〇年五月以降)、住宅貸付金一万五、〇〇〇円の月賦弁済金(昭和三九年一二月まで)を控除し、更に相手方である父の社会的地位、家庭状況等から見て通常父の小遣、雑費、父と後妻の食費その他の生活費等を支出するとしてもなお三、四千円の余剰はあることになると思われる。尤も父の強調する上記各種の負債があるものとしてこれを月々返済するとすれば、毎月の支出が嵩み到底毎月の給料では不足して支払うことができなくなるものと考えられるが、上記の如く父の負債は生活の乱れに基因して生じたものが相当あるものと思われる一方、申立人の母においては差当り毎月約五、〇〇〇円の上記アルバイト収入が昭和四〇年四月からなくなると共に、同年二月から毎月五、〇〇〇円の間代の支出が増加しているので、父も母も未成年者である申立人に対して上記説示の如く生活保持の義務を尽すべき責任がある以上、いずれも或る程度の不自由不如意を忍んでも少くとも申立人の高校卒業まではその監護教育に万全を期すべきであるから母は勿論父においても本件扶養を一部負担すべき事情にあることが認められる。

そこで、相手方である父が申立人に対する本件扶養料として母と共に分担すべき扶養料額について検討するに、当裁判所調査官畑地久子作成の昭和三九年一〇月三一日附調査報告書、取寄に係る当庁昭和三九年(家イ)第四八六号離婚に基く慰藉料請求等調停申立事件記録、本件記録添付の上記調停事件の調停調書謄本によれば、申立人の母は父を相手方として上記協議離婚に基く慰藉料の支払、家財道具の引渡等の請求の外、申立人の学費及び養育費として毎月八、〇〇〇円の支払を求める趣旨の家事調停申立書を昭和三九年九月九日当裁判所に提出し、同月二一日調停に次いで、同年一〇月八日の調停期日に、家財道具等の引渡について調停が成立し、その余の請求については別途考慮することとして、同日申立人から父を相手方として本件扶養請求の審判が申立てられたこと、相手方である父は上記調停の際もボーナス時期に一万円宛を申立人に支払うと言明し、なお必要に応じスチール製の机、椅子を買つてやる考えであり、今後もできる限り父親としての義務を尽したいと述べているが、申立人は成績も良好で、健康明朗の高校生であり、高校卒業後は就職したい意向であることが認められる。

よつて、以上の認定事実によれば、相手方である父は本件扶養の審判申立がなされた昭和三九年一〇月から申立人が高校を卒業する月(昭和四一年三月の見込み)まで毎月三、〇〇〇円宛並びに昭和三九年一二月、昭和四〇年の六月、同年一二月の三回のボーナス時期に一回につき一万二、〇〇〇円宛の扶養料を分担支払うのが相当であると思料する。

そこで、相手方は、申立人に対し上記認定の扶養料のうち、昭和三九年一〇月分から昭和四〇年三月分までの扶養料(毎月三、〇〇〇円宛)として合計一万八、〇〇〇円及び昭和三九年一二月のボーナス時期分として一万二、〇〇〇円以上合計三万円を直ちに、昭和四〇年四月分以降申立人が高校を卒業する昭和四一年三月まで一ヵ月三、〇〇〇円宛を毎月末日限り、なお昭和四〇年六月及び同年一二月のボーナス時期分として一回につき一万二、〇〇〇円宛を夫々月末限り、いずれも福岡家庭裁判所に寄託して支払うのが相当である。

なお、申立人の高校卒業後の扶養料については事情変更が予想されるので、更に別途に当事者間で協議するのが相当と思料する。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 滝口隣)

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